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2023年05月10日

クリスティ読破52『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』

はい、こんにちは。          雪華ホーム

20230522近所の雑草




1946年52作目の刊行は『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』。アガサ56歳。
最初で最後でしょうね、旅のエッセイです。
二度目の夫マックスは、著名な考古学者。アガサは執筆活動をしながら、
夫の発掘旅行に長らく随行していて、これは、1930年代のもののようです。

鋭い観察眼に加えて、
アガサのユーモア精神が溢れていて、いつものミステリーとは全く違います。
登場人物達のキャラが濃すぎて、脚色ありやいなや。
シリアやメソポタニアの住人や、そのうちの発掘仲間にしても、異色のメンバーであり、
現代で言う多様性に満ちていて、不思議な世界を案内してくれます。

全く自分の土俵ではない環境の中を、アガサがその不自由ささえ楽しんでいる様子が
微笑ましくもあり、また意外に逞しいところがあるのだと感心いたします。
マックスじゃなくて名前が似ていますが、マックという青年がいます。
全く、徹底的に不愛想な彼とは、うまくやっていけないのではないかと、
初めは心配だったんです。口べたのアガサの方から話しかけたりしていますから。
でも、相手にしてくれないのよねえ。
いつも謎の日記帳をつけていてね、マイペースなんです。
しばらく間を開けて再会したときにに、マックが、顔じゅうで笑っていたと表現されて
いますの。アガサには、すっごい喜ばしいことのように映るもんですよ。
なんか、嫌われてなかったのかもしれない、とホッとするんですね。
あるある〜でございます。

ネズミ退治に雇われる必殺仕事人の猫の話も印象に残ります。
ですが、これほど強烈なものはそうはないでしょう。
人がいる所には、いるんですよね、虫が。
『インディ―ジョーンズ』も、あれが怖い。
アガサの発掘調査隊は、改装途中の住居で夜を明かさざるを得なくなって、
そこは壁がちゃんと壁の役目をはたしていなくて、穴だらけだったようなんです。
夜中に、アガサが気づくと壁いっぱいに日本語の頭文字がGのものが。
羽をひらひらっとぎっしりすし詰め……ネズミは顔の上でも走り回るという、
もはや戦場のような光景。
異郷の地で、わりと平気なアガサだったのですが、これにはたまらず、
「イギリスに帰る。今すぐ帰る」と半狂乱になったそうです。

この発掘チームを仕切っているのは、当時まだ26、7歳だったと思われるマックスなんです。
なだめたり、すかしたり、注意したり、叱ったり。
いろんな事件、緊急対応が求められる中で、その都度の判断能力と即決がすっごいです。
と、アガサの目に映ったんでしょうね。
そりゃあ、惚れるわね。
安定した精神で物事を見ると、大事なものがたくさん見えてくるのでしょう。
マックスは、些事に惑わされない人のようです。虫も平気。私は無理!

この度初めて、エッセイを読みました。
旅がアガサをさらに偉大にしたのだなと、実感できます。
シリアの土地とそこに住む人々に畏敬の念を持って、愛していると述べています。
エピローグには、このエッセイを記そうとした理由などが書かれています。
さらに、
「あの穏やかな肥沃な原野と、そこに住むシンプルな人々。彼らは笑うことを知り、
生活を楽しむことを知っていた。のんびりとして、陽気であった。彼らは威厳を、
りっぱなマナーを、尽きざるユーモアのセンスをそなえ、そして彼らにとっては、、
死もけっして恐れるべきものではなかった」
インシャッラー、それが神の御心ならば。……達観した境地でございます。
アガサが戦時体制のロンドンを過ごした後に書かれた、意義深いものでもあります。

意義深い動機もさることながら、
このエッセイは、売れっ子のアガサに、どの人もこの人も、
「ねえ、あなた最近どうなのよ」って、若い夫マックスのことを聞きたがるのが、
面倒になって、本読んでねと断るのに好都合だったに違いないと、私は睨んでいます。

ブラボー!!


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