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2022年06月19日

クリスティ読破32『もの言えぬ証人』

はい、こんばんは。          雪華ホーム


20220604谷津バラ園他2


1937年32作目刊行は『もの言えぬ証人』、アガサ47歳。
前作がブリッジゲーム中のダミーと呼ばれる、だんまりの役を利用する犯人を出したかと思うと、
今作は、だんまりのdumb が証人なのでございますよ。
「アガサ、よーやる」と尊敬も込めて当時の読者はぷぷっと笑ったでしょう。

『青列車の秘密』の献辞にあるピーターがアガサの飼い犬だとは気づかなかったのですが、
今回の最高の賛辞は愛情の現れですね。犬好きにはきっと、たまらない小説だと思います。
そうでなくても、十分に楽しめます。

久しぶりにヘイスティングズ君が登場します。
巨額の財産家エミリイ・アランデルは、手紙でポアロさんに命の危機を訴えます。
手紙の文字が特徴的で達筆なのかもしれませんが、詠み辛い。
興味深いのは、配達される数か月前に書かれた手紙であることでした。
慌てて訪問しますが、依頼人は既に二か月も前に病死と判断されていたのです。
導入部分の謎として、珍ししいケースでありインパクト大でございます。

余談ですが(このブログ全部が余談ですね)、
アメリカ版の題が、『ポアロ クライアントを失う』なんです。
英語だから原題で通じないものなのかしらん、まあ、百歩譲って、米語と英語でニュアンスが
変わってしまうということなのかもしれません。
それにしても、来てくれって頼まれたクライアントがいない、っていうところは面白い部分なのに
タイトルでばらしてしまったら面白さは半減すると思いますよ、私は。
ミステリーは英国に限ると常々感じていて、アメリカはハードボイルドに流行が早くから移って
しまいましたので、本格推理もののセンスに欠けるのかなあと感じています。
アガサの映画化作品も同様です。古い古い映画でミス・マープルシリーズがあるのですが、
マープルさんの品がないことと、なぜかおじいさんの友人と一緒に捜索するというストーリー
に変わっているんです。ア・リ・エ・ナーイ。
レディファーストの振りをして、長らく男社会だったのでしょう。現在は違うと思います。
一方、英国では女王様の国ですもん、保守的なアガサでも目覚める機会は多かったかもしれません。
ミステリーの中身も、どこがキモなのか、どこに注目してもらいたいのか、というような
感受性が違ってるなあと思うことがあります。
国民性だけでなくて、個人差の方がもっと大きいでしょうが。

いつもネタばれですから、
既に読んだ方、一生読む気のない方と盛り上がりたいと思っています。
このアガサの感想ブログを書く前に、かなりのネット上の感想を一応読んでみるんです。
今回すごく感じたのは、解説者サイテーっていうのが多いんです。三点あります。
アガサは、1937年当時までの過去作の犯人の名を四名列挙していて、順番に読んでる読者への
サービスをしているので悪くはないんです。名前なんか覚えてないですしね、まだ、読んでない
人には、何のことだかわからないですから、スルーするはずですし。
でも解説に書いてしまうと、変に記憶に残ってしまうかもしれません。
カーテンのネタばれは、発売前にも言ってたことで、それはそんなに大したことではないでしょう。
名前と言えば、別の作品にもありましたが、ニックネームは曲者なのでございますよ。
これは、わからん。日本人には難しいですね。
二点めは、ヘイスティングズが、ポアロに対して、「あんた」という翻訳の仕方をしている、
という部分です。
たぶん、テレビ放送の影響が絶大だと思うんでございますの。あれが、こびりついてしまってます。
なんだか、考え込んでしまいました。ひょっとして、二人の年齢差はさぼどではないようですし、
ヘイスティングズ大尉は貴族でしょうし、外国から来た、いわばよそ者に対して、
「あんたはどう思う?」って言うかもしれないなあ。いつも敬語でポアロさんポアロさんって、
話す人のいいヘイスティングズ君ではなかったりして? 
習慣って恐ろしいもので、違和感を私も感じていましたが、翻訳があながち間違ってるとも言えない
かもしれない、と感じました。

もっとも、ヘイスティングズのキャラは相変わらず、可愛らしいです。
ボブの犬語を通訳してくれますから。
一方、ポアロの尋問方式が、いつになく嘘八百の演技と、
立ち聞きしたりする下品さに、ヘイスティングズびっくりという荒っぽい情報収集をするしか、
依頼人がいないので苦肉の策なのです。

依頼されてもいないのに、ボブの疑いを晴らしてあげることに、頑張っちゃうところが、ポアロさん。
「僕はやってないよ」を代弁してあげたポアロさんよりも、世話熱心なヘイスティングズ君の方が、
ボブに好かれたみたいでしたね。

もう、忘れたかもしれませんが、読後感想で多い三つめが、
ラスト、ポアロが犯人を自殺に追い込む部分です。私は、因果応報で大いに結構だと思ってますがね、
命が、命がっていう固まった考え方が昨今の流行りなんでしょうが、被害者の命は、
どうしてくれる? っていう考え方もございます。
また、最初のエミリイからの懇願にあったように、家の恥にならないように内密で解決してほしい
という依頼人との約束を守った形でもありました。
契約金はもらってないポアロですが、やることはやるのでございます。
それをちゃんと、訴えるエミリイの長年の友人キャロラインも、言葉は悪いけれども頭脳明晰で
食えない婆さんでした。婆さんの描写は流石でございます。

エミリイの性格として、典型的なヴィクトリア時代の女性だったと書かれています。
ヴィクトリア時代的描写は、アガサの祖母からイメージしているようなのです。
我が儘であり、ときには傲慢。口先は辛辣だが、親切。
外面的には感傷的でありながら、内側では抜け目がない。
私は昭和の人間ですが、明治の女は強いというイメージがありましたし、令和の人には昭和がそう
見えるかもしれませんし。似たようなものかもしれませんね。
先入観や偏見や思い込みの類でしょう。

先入観を利用する、というのがアガサの一つのテク。
今回も意外な犯人でございますよ。
知っていて読んでいれば、はやばや冒頭五ページめには登場するんですが、
「あの子は、外国人と結婚したのが良くない」なんてね、
島国根性のある(イギリスも日本も)人間には、どうしたって医師の旦那の方に目が行きます。
ミスリードの天才に、いいように踊らされる毎日でございます。これが至福!

次作はいよいよ『ナイルに死す』
ブラボー!!





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