先週のお稽古作品から五つピックアップ肌寒くなりました

2021年10月13日

クリスティ読破15『愛の旋律』

はい、こんばんは。          雪華ホーム


20210916ハローウィン


第15番目は、1930年アガサ40歳時の刊行です。

アガサ・クリスティは、ミステリーでない小説をメアリー・ウエストマコット名義
で発表していて、この『愛の旋律』がその第一弾です。
現在はアガサ名義で統一されています。
当時はミステリーを期待して購入した読者が幻滅しないようにとの配慮だったとか。

原題はメロドラマみたいなタイトルではなくて、『巨人の糧』です。
巨人とは天才のことのようですが、作品に己の人生の全てを捧げ尽くすということと、
関わる周りの人物にも、支え与え続ける覚悟が巨人にとっての糧の一つだという
ことのようです。

登場人物は幼馴染の四人に、後に関わりの出るアメリカ人との五人が中心で、
それぞれの人物像はわかり易く、物語は恋愛模様だけでなく戦争や死、おまけに記憶喪失
と、波乱万丈です。
ストーリーテラーの面目躍如たる出来栄えでしょう。

ただ、このヴァーノンという音楽の天才の幼少の頃からの記述が面白く、
どんどん興味深く読み進めることはできますが、
幼少期も成長してからも、あまり天才っぷりは見せませんので、なんだかなという
感想は持ちました。

プロローグでは、オペラ劇場で画期的な新作『巨人』が公演される場面から始まります。
これと、ヴァーノンとがなかなか繋がりませんので、ややイラッとします。
じらされているだけかもしれません。

様々な愛が語られるのですが、誰もが愛を手にしているのに誰もが幸せではない。
そもそも幸せとは何か? 自体が、難しい問題ではありますが、
恋愛の不毛さ、悲観的な面が出た恋愛小説です。
すみません、はっきり申し上げて私は好みでありません。
昔の記憶でもそうでしたが、かなり歳月がたった今でも、
この感覚は変わっていなかったということが今回わかりました。
ミステリー好きではないけれども、アガサの普通小説は好みだという人達が、
結構いらっしゃることも承知しています。
メアリー・ウエストマコット名義の小説には、
アガサの人間観察の冷徹さが、もろにと言いますか、むき出しで現れるような気がします。

文学論や絵画論などで、ちょくちょくお目にかかりますが、
作品が必ずしも作者本人を表しているとは、一概には言えないと思いますの。
ただ、ミステリーで、ぶっ飛んだ世界を表現しつつ、
もう一方で身近なこれまでの人生のあれこれを
小説世界に投影してみたかったと考えても不思議ではありません。
自伝によるとアガサ自身が十代の頃、オペラ歌手を夢見ていたことや音楽留学していたこと、
子供の頃の記憶のあれこれ、
戦争中に看護婦として働いた経験などを生かしたストーリーなどが、
この小説の中にたっぷり盛り込まれていたりします。
ですから、解説などには酷い前夫とのトラウマが、恋愛を複雑なものにしているのでは……?
みたいに邪推されやすいのでしょう。
離婚の経験が無くても、
ミステリーやお芝居の脚本では、ハッピーエンドにもっていくのがファンサービスであって、
ご本人様は、もう少し違う視点をずっと持っていたのではないかしらん、と私は思うのです。
そしてその核は、若い頃に既に持っていたという事実に私は驚いています。

人は一面的ではなく、たくさんの心のひだを隠し持っているからこそ、
深みがあるというものでございますね。
特に晩年はそれこそが、アガサの強みとなるのですから。

次は『シタフォードの秘密』、これぞ本格物好きの仕掛けがいっぱいのミステリーに。
ブラボー!!

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