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2021年09月03日

クリスティ読破13『牧師館の殺人』

はい、こんばんは。          雪華ホーム


20210830菊


1930年、この年四冊が刊行されていますが、
13番目『牧師館の殺人』はアガサ四十歳の時の作品です。
女性探偵ジェーン・マープルは雑誌に短編を既に発表していて、長編としてはこれが初出です。
短編集の刊行年は二年後となりますので。

このブログは細々と16年ほど続いていまして、
2012年おおよそ10年前に、『牧師館の殺人』の感想をアップしていましたの。
その時も、初めて読んだわけではなくて、再読の感想文でした。
2012年の四月から大阪文学学校という小説の学校に通い始め(その後2年は大阪を離れたために
通信教育で計3年)、無謀にもミステリーを書こうとしたのです(今も同人誌で書いていますがね)。
『牧師館の殺人』は私の読むためではなく、書くための最初のテキストブックで、
文庫本自体も書き込みとチェック、ドッグイヤーとボロボロの状態で、今手元にあります。
レポート用紙に、章ごとの要約とどこにヒントが明かされ、どこにミスリードを使い、などと
私なりの分析をした思い出深い一冊です。その用紙は何度かの引っ越しで無くしました。
ただ、真似ようとして簡単に真似できるものではありません。

本題に戻りますと、
女性探偵はこの時代(日本では昭和5年)に斬新ですが、
自伝の中ではマープルさんの活躍のヒントは思い出せないとしています。
私には偶然ではあり得ない、絶対に必然だと思われるのです。
このミステリーのトリックは(ネタばれしますよ)、
とても観察力があり、間違いのない人物であると小さな村で評判のマープルおばちゃまです。
ですが、外見は普通のおばあちゃんですから、警察にもうっとおしがられたりします。
犯人は偽の情報を与えて、このおばあちゃまを利用して、完全犯罪を目論見ますの。
ここがキモだと思います。
賢いけど、探偵じゃなくて素人だと思っているんです。
だとすると、世界的に有名だと知られているポアロさんが、
この物語の探偵役としては決してあり得ないでしょう。
ジェーン・マープルが、ポアロに匹敵するほどの名探偵となることは予想外だったでしょうが、
新しい探偵は必要から生まれたと考えています、アガサはすっとぼけているのではないかしらん、
と思います。
解説の方にしてもネタバレに触れるようなことは書けませんからね。

人気の米ドラCSIを夢中で見ていた時期がありました。
事件当初に捕まった犯人が、別の証拠により容疑者から外れ、捜査の末結局この人が真犯人だった
というようなパターンはけっこうあります。
自首してきて、偽のアリバイを見つけさせて、容疑者から外れるというのは無いでしょうね。
読者の心理をうまく利用していると思います。
このミステリーでは裁判にまで発展する前に釈放されるケースですが、
アガサはその後さらに発展して、
一事不再理の原則を利用して、逃れるケースも書いています。

今回またまた再読して感じたことがありますの。
ずっと昔最初に読んだ時もこの本はミス・マープルという探偵が登場する小説だということを
知っていて読んでいるんです。ほとんどの読者も、そうでしょう。
これを知らないで読んでいたらもっと面白いかもしれないと気づきました。
というのも、一人称で物語を進めるのはクレメント牧師なんですね。
これはひょっとして、アクロイドみたいにこいつが犯人か? 
いやいや同じアイデアを続けないのがアガサだと思いながらも、一応の警戒はしますでしょう(笑)。
と同時に、探偵役はこの人なのか? と探り探り読みすすめるはずです。
本文中にチェスタトンに言及していて、牧師探偵で有名な作家ですからね、あり得ますでしょう。
これも、いやいや安易な真似はしないだろう、と思いつつも実際に探偵的な役割を果たしますから。
ジェーン・マープルという女性は仲良し四人組の一人として、出番はほとんどありませんの。
クレメントの若い妻グリゼルダが、「何でも知っていて、怖い人、意地の悪い人」と、
うわさ話には、ほんのごくたまに登場する程度です。
これはあくまでもグリゼルダの評価ですからね、隠し事がある人にとっては、そう感じるでしょう。
友人の間では一目置かれ、頼られる存在です。
実際の発言などにはとても物静かで理性的と言えるでしょう。
人物を判断するには、他人の話よりも本人の言動を見るのが一番ですわね。
言はともかく、動に関しては、一点だけエキセントリックとも言える行動を示しています。
庭好きで草花の世話に余念がないのですが、飽きると双眼鏡をつけて村人をチェックしているので
ございます。これはまいったな、と思いますが、名探偵の素質充分でございます。
マープルさんは日本庭園を造っているのでね、石についても詳しくて事件解決のきっかけも
得ています。

それにしても、死体と怪しい人物がこんなにたくさんいて、噂好きの田舎町には、
とっても住みたくはありません。
ぼーとして見えるおばあちゃんの概念をひっくり返し、
のどかかで平和な町をひっくり返すことにも成功していますね。

テレビ放送などには、お茶の間に不気味なおばあちゃんの登場では人気が出ないと考えて、
少し穏やかに変更されています。これはポアロさんでも同様です。
それにしても、450頁ほどの小説の中で、マープルさんの独断場となるのは、
終わりに近い30頁弱なのですよ。
誰が探偵なのかという、驚きの結末とも言えませんでしょうか? 
「えっ? このばあちゃんが探偵?」みたいな。
文庫の帯などに書いていなければ、犯人が誰かと共に、探偵が誰かも楽しめたのかもしれません。

マープルさんの推理は完璧なのですが、証拠は無いんです。
深い人間観察と洞察力の賜物という設定です。
「犯人はあなただ!」的なクロージングではなくて、犯人をわかった上で一杯食わせますの。
充分意地悪かもしれませんが、アガサは面白い手法をまた創造したのです。

犯人に利用されたことを、穏やかな口調で「私が間違ったのだと思いました」と述べ、
腹立たしさや感情を表すことは一切無いんです。
ただ、牧師がマープルに事件解決後に語り掛けるんです。
「こんな物凄い推理ができるなんて、甥御さんに一矢報いることができるんじゃないですか?」
その時の返答が強烈です。
大叔母の言っていたことで、自分が若い頃には意味不明だったのですが、と前置きして、
「若い者は年寄りはばかだと『思って』いるけど、年寄りは若い者がばかだということを『知って』
いるんだよ」と。
これは、犯人に向けての精一杯の逆襲でもあったことでしょう。
何度も書きますが、アガサ四十歳の時の作品ですけどねえ、恐れ入ります。

アガサ自身もジェーン・マープルをシリーズにするとは思っていなかったのか、
続編が出るのは十年以上も後の1942年『書斎の死体』までお預けでございます。
これがまた、脂がのってきて良い作品になるのです。

マープルさん大好き〜ブラボー!!


sekkadesu at 23:16│Comments(1)

この記事へのコメント

1. Posted by Edwinrut   2021年09月04日 08:24
5 Есть отличный стротельный сайт


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