クリスティ読破5.『ポアロ登場』ドキュメンタリー映画『ピース・ニッポン』

2021年05月08日

クリスティ読破6.『チムニーズ館の秘密』

はい、こんばんは。          雪華ホーム

20210515市川動植物園シロサギ





アガサ六冊目の刊行『チムニーズ館の秘密』でございます。35歳。
冒険ミステリというジャンルとされています。

冒頭に魅力的な二つの依頼をジミーからアンソニーは託されます。
ヘルツォスロヴァキア国の回顧録をイギリスの出版社に届けることと、
ある女性へのゆすりのネタである手紙を入手したことから、
これを本人に返してあげて安心させること。

アフリカのジンバブエでのアンソニーと友人ジミーとの久方ぶりの再会から、
始まる二人の会話はたいへんコミカルで、すぐに引き込まれます。
出だしは見事なのですが、
その後の展開が複雑怪奇? でございますの。
読む前に既に、見開きカバーをまず見て、登場人物が20名。文庫本で470頁。
いささか、気が引けたのをその頃思い出し始めました。

アンソニーはヘルツォスロヴァキアの王政支持派や反対派の刺客と遭遇し
アクションシーンは満載、回顧録争奪戦、手紙の主であるヴァージニアは何者、
中東の石油利権やいかに、盗まれた財宝探しの暗号読解の謎……。
アンソニーとヴァージニアのロマンスは?
なにせ、てんこ盛りなのです。

文章の流れは軽快で、読みやすいにも関わらず、今このシーンは何なのか、
しょっちゅう意味不明に陥り、これは私には難しすぎると何度も思いました。
アガサの作品でなければ、途中で放り出していたでしょう。
そうだ! 映像で見ればわかり易いかも……と悪知恵を働かせ、
ミス・マープル版でこの「チムニーズ館の秘密」が収録されていて、早速見てみました。
もともと、マープルさんものではないのですが、そこはうまいこと脚色してあるのだろうと
想像しましたが、これは、全くの別の物語でした。
内容は大幅に整理されているとも言えますが、良い点はチムニーズ館の重厚な内部が
見られたことと、ストーリーが最初からこの屋敷内から始まることでしょうか。
小説は、とても混み入っているので、たくさんの情報を予め揃えたところで、
さあ、館へとなりますから、それまで150頁近くかかります。

大きなお屋敷を差配する執事の視点で描いた、
『日の名残り』(カズオ イシグロ著)が貴族の中での執事の役割がよくわかります。
そもそも主人の話し相手ですとか、雑用係のイメージかもしれませんが、全く違うようです。
イギリスでも屈指のお屋敷ですと、100人単位の使用人がいて(住み込みで)、
3〜40人も泊まれる寝室を常時使用可能なように運営していて、
もちろんそれらの数のお食事も必要になります。
執事はホテルの総支配人のような存在ですし、オーケストラの指揮者のような役割でもあります。
チムニーズ館も、英国で三本の指に入るというような設定ですので、
大きな会議の前段階の話し合いが行われたりするのです。
歴史に残る調印が行われる会議は、あくまで儀式用であって、
その前に本当のところは決めなければならないからです。

ちなみに、日の名残りの映画の方はあまり好きではありません。
主人公役の執事をアンソニー・ホプキンスさんが演じているんですね。
現在時間はこの配役でいいとしても、過去に遡る映像には、
もう少し若い俳優さんにしてほしかったです。
共演している、クリストファー・リーヴさんでも、ヒュー・グラントさんでも良かったのになあと
思いました。
お仕事の詳細も感情の機微も原作が断然オススメ。

チムニーズ館に戻りますと、
本文中二度も、「貴賎相婚」という言葉が出てきまして、いやでも気になります。
イギリスにはこれに当てはまる例はなかったそうですが、ヨーロッパの例の一つとして
有名なのはハプスブルク家で、フェルディナント大公と結婚したゾフィーがそうなんだそうです。
ゾフィーは伯爵の娘ですけれども、王室の出身でないとか、カトリック教徒でないといけないなどの
家憲があり、つまり夫が貴で、妻が賎(どこが?)の結婚なんですって。
ゾフィーも下に置かれ、その子供にも帝位を継げないしきたりだそうです。
ですから物語は、この逆のパターンをいくのかしらん、という私の予想でございました……ハズレ。
ウィキペディアで、貴賎相婚を調べましたが、あとで解説に説明があることを知りました。

チムニーズ館には、世界を放浪しているアンソニー・ケイド、元外交官夫人のヴァージニア・
レヴェル、館主人のケイタラム卿、その娘、国際的宝石泥棒とその一味、
ヘルツォスロヴァキアの王子、王政擁護派の男爵、反対の共和制支持派レッドハンド一党、
全英シンジケートの代表、アメリカからの客、ロンドン警視庁のバトル警視、
パリ警視庁のルモワヌ刑事、
もう、入り乱れて覚えきれない面々が終結するのでございます。
現実離れしたファンタジーであることは、本書解説によるとアガサ本人が語っていたようです。
ただ、後年お芝居にもしているところをみると、
ドタバタ劇を気に入っていたようですし、楽しい大団円は当に演劇にはピッタリだったと思います。
この題材はお芝居で見たかったな。

大規模な屋敷の所有者は、単なる維持だけでなくて、社交の場、外交や政治の重要な会談の場
として提供する義務が課せられていたようです。
架空のカントリーハウス、チムニーズ館の第九代ケイタラム侯爵がたいへん面白い人物です。
次男であり、本来ならば跡継ぎではないのですが、
兄が亡くなり、いやいや引き受けたようで、「彼の人生の中の大きな不幸」と称していました。
皮肉交じりの発言が笑えます。

ラストは皆を集めて、謎を回収するあたり完璧にアガサのパターン。
うなりますよ。あああ、そうだったのかとね。
読んで良かったと思わせる見事なエンディングでございました。

次回は世界を揺るがした、あの『アクロイド殺し』お楽しみに。

ブラボー!!


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