クリスティ読破1.『スタイルズ荘の怪事件』早くも新緑

2021年03月28日

クリスティ読破2.『秘密機関』

はい、おはようございます。          雪華ホーム

20210324上野の桜




刊行二冊目でございます。『秘密機関』1922年、アガサ32歳。

献辞として、「冒険の喜びと危険を少しだけ感じてみたい、
退屈な生活をおくっているすべての人たちに」とあります。
アガサが二作目に世に送り出した作品は驚きの冒険小説です。
前作スタイルズ荘とは、ガラリと雰囲気の違うものです。
当時はこのようなジャンルのものをスリラーと呼んだそうなんです。
スリルに満ちていると言う意味です、ホラーではなくってね。
私が今名づけるとすると、ラブコメミステリーがいいのではないかしらん。
トミーとタペンスという夫婦者探偵(このときはまだ結婚していませんが)のシリーズ第一作です。
自伝によると、スタイルズ荘出版にあたって、出版社との契約をかわしたのですが、
本になることの喜びが一杯すぎて、
契約の内容にまで気がまわっていなかったという状況だったらしいのです。
ミステリーの天才でも、契約事には素人ですものねえ、容易に想像できます。
本人の受け取る収入の少ない契約で、五冊分は書かないといけないという条項もありました。
その時の五冊のうち三冊が、なぜかこれら冒険小説の類のもので、その後スリラーは何冊もは書いて
いないという不思議。
この時代とくに、スリラーに興味があったのかもしれませんが。
その後は恩師フィルポッツからの推薦者がらみで、終生の著作権代理人を迎えます。
とても興味深いのは、六冊めに刊行したのが、あの『アクロイド殺し』でございます。
私には、満を持して、というように思えてなりません。

日本で言うと、大正11年ですからいろんな意味で驚きでございます。
次から次へと、話が展開し切羽詰まったときにも、コミカルな描写で飽きさせません。
首謀者が誰かという謎を潜ませる手法はアガサらしい鮮やかさ。
一番はタペンスのお転婆ぶりが好かれる要因ですが、このまま映画や舞台にできそうな感じです。
実際、ドラマ化されたものでフランチェスカ・アニスさんがタペンスを
おしゃれでおきゃんな女性に見事に演じていていて好きです。
ドラマ化されると、内容は全く別物になることが多いので、これはこれ、それはそれで、
楽しみましょう。
たいていの場合、小説にいたく惚れこむとドラマに難癖をつけたくなるものです。仕方ない。
汽船ルシタニア号の沈没から救出された若い女性の運命や、いかに。
するすると読ませます、ストーリーテラーの面目躍如たる冒頭から読者を引っ張ります。
ラストは二組のカップルが誕生して(アッ、これは口チャックだったかも)
大団円を迎えるところなど、シェークスピアの喜劇のようです。

トミタぺシリーズは、1929年の『おしどり探偵』という短編集を刊行してますが、
「あの二人はその後どうしていますか?」
というような読者からのお手紙でなんと20年後に長編『NかMか』が出ます。
さらにバージョンアップして出せるところが、アガサの才能が尽きないことを
まざまざと感じさせます。
ポアロ、マープル、ほどではありませんが人気の探偵たちですね。

私、一つ不満を述べたいところは2011年発行版の松なんちゃらという方の解説文です。
「クリスティは政治音痴であって……、複雑怪奇なスパイ・スリラーの味はない」のくだりで
ございますの。献辞を読め。複雑怪奇なもんの味は好まんのであります。読者もたぶん、そう。
ヒリヒリとして火傷しそうなほどのスパイものも時には好きですがね。
国際政治の主義主張の問題は社会科学に任せるとして、登場人物の時代背景としてどう語らせるか
は自由です。第一次世界大戦後ですからね、その当時の空気が働いていたはずです。
フランス革命が民衆の側から描いた方が面白いからでしょうが、民衆が善で貴族が悪のようにしばしば
描かれます。当の普通に暮らす貴族からしたら、責めてくる活動家たちは今で言うテロリストのように
恐ろしく感じられたことでしょう。イギリスの当時の貴族側から見れば、
共産主義者もアイルランド独立運動や過激な労働党なども等しく脅威であったと思われます。
文芸作品であるならば、どう感じるのが当時普通であったのかを描くことに問題ないと感じます。
ルシタニア号を撃沈させるのはドイツです。現代のドイツではありませんからね。
黒幕の一人相撲を明かした上での、ドタバタ劇を回想すれば納得するでしょう。
おかしいなと少しは疑っていたものの、すっかり騙されていた己にハッとするところが、
ミステリーの楽しさ。
荒唐無稽さを笑うのであれば、小説世界ではなく目ん玉開いて現実を見つめたていたらよろしい。

本の解説感想になってしまいましたが、この次の『ゴルフ場殺人事件』の解説文は翻訳者でも
ありますが、文学の香しさ漂う解説で感動しましたの。いろいろです。
それはまた、次回のお楽しみ。

コメディをやたら低く見る風潮があります。十把一絡げではなく内容によります。
井上ひさしに「むずかしいことをやさしく、やさしことをふかく、ふかいことをおもしろく、
おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」
という有名な言葉があります。物語の原点を私はここに見ますし、尊敬すべき言葉です。

ブラボー!!


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