連翹(れんぎょう)の花咲いた2月の市川万葉植物園

2021年02月21日

BBCドラマ『夜の来訪者』

はい、こんにちは。          雪華ホーム

20210221長崎鍋敷き



BBCドラマで印象に残った作品について書きます。
『夜の来訪者』
イギリスの劇作家J.B.プリーストリーの代表作で、白黒映画だったか映画もありました。
2015年BBCがドラマ化したものを見ましたが、意外にも大当たりの佳作でございました。
舞台が元ですから、ほとんどワンシチュエーションに近い、
室内での会話が主になりますが、それが真にスリル満点。
何度もお芝居が再演されるのは、うまくまとめられているからであり納得です。
すべての糸が繋がる瞬間は見事でございます。
これを有り得ないーとか、予定調和であるとか言う輩は、物語の面白さをわかっていない
としか言いようがありません。

1912年春の設定。
裕福な工場主であるバーリング家の贅をこらした館。
当主のアーサーはナイト爵を授与されることが目前で、利己的な上昇志向の成功者、
妻のシビルは慈善事業に没頭しつつも、鼻持ちならない特権意識にたぶん気づいていない、
娘のシーラは、お金持ちの我が儘娘、
息子エリックは酒におぼれる放蕩息子。
そして、シーラの婚約者ジェラルドを迎えて、
お祝いの晩餐会を行っている実に幸せそうな場面から始まります。
ジェラルドも銀行家のお坊ちゃん。
この時代設定、貴族の館、一族の面々、当時のファッション、
どれも私の大好物でございます。

華やかな会席の場に突然、グール警部なる人物が現れますの。
数時間前に自ら命を絶った若くて美しいけれども、
貧しい女性エヴァ・スミスについて調査していると言います。
そこにもたらされる真実はいかに。

サスペンス的興味というよりは、考えさせられるドラマでした。
教訓や寓意を込めた戒めの内容でありながら、
ラストのどんでん返しは、意表を突くとともに、
これでまた新たな罪をこの一族は負うことになりますの。
ただの説教めいた物語にしない技が、イギリスの物語にはあるのかと、
脱帽いたしますことがしばしばあります。
反省したかに見える言葉や仕草は、いとも簡単に状況が変われば、
取り繕いますのでね。ちっちゃい人間の保身は醜いです。
表面に現れる言葉ではなく、行動にこそ真価が出るのだと改めて感じます。
知った時直ぐに探し出していれば、この状況はなんとかなりましたから。

冒頭場面でエヴァは、「神を信じるか?」と問われ、
「神でも信じないと世の中から永遠に落ちてしまう」と答えます。
世の中から落ちてしまう恐怖はいかばかりでしょうか。
その後、人間の傲慢や保身が容赦なく他人を傷つけることを目の当たりにするのですが、
個人の品性の問題だけでなく、
この時代の目に見える階級社会が、明らかに資本者が労働者から一方的に搾取する構図も
見逃せない点でございます。
翻って100年後の私達の世の中ですが、
似たような状況に陥っているように感じられるのです。
富は一部に集中するようにシステム化されて、別の世界を構築しているにもかかわらず、
日本などはとても巧妙で一般大衆の暴動を起こさない程度に隠されている、
あるいは見ようともしない、
んじゃないかと穿った目で案じております。

『パラサイト』を思い出しました。
上流階級に反発して暴徒化するのではなくて、寄生するんですよね。
今までにないショッキングさと、気色悪い怖さ(?)でした。
これって、今後の日本も同様にアジア的な生き方としてありかもしれません。
同じ時期にアカデミー賞にノミネートされました『ジョーカー』が暴れ出す怖さは
欧米の上流階級の従来からある、普通の怖さだと思うんです。特筆するものはありません。
『パラサイト』のポン・ジュノ監督の『グエルムー漢江の怪物ー』もオススメ。
只の怪獣映画ではない、先の展開が読めない佳作だったと思います。

数日前の日経新聞の一面に、FRB統計の米国での保有資産のグラフが載っていました。
上位10%の資産は右肩あがりに、しかもものすごい角度で上昇していますのよ。
中位40%は低い位置でほとんど横ばいですが、若干上位につられるように上がっていて、
下位50%は、驚くべきことに横線のX軸の上を(つまりゼロですが)上塗りしていくのです。
これは米国の例だけではなく、日本もいずれ似たようなことになるのでしょう。

米国株式の恩恵は金持ち層にだけしか届かないという訴えが終に出たというような
ニュースがありました。気付いているだけ偉いかもしれません。
米国の歴史的な景気拡大は上位1%の超富裕層の富を膨らませ、
彼らの資産はミドル層とアッパーミドル層の人々の合計資産額を上回ろうとしているという
データもあります。コロナ禍の不況は下層に響いているだけとも言えます。
日経平均株価も30年ぶりに三万円を回復しました。
私はバブル時代をよく知っていますが、その時の高揚感は全くなく不気味な静けさの中で
日本の株価も上昇しています。
偉い人の言う「実態経済を伴っていないバブル」という表現をよく耳にしますが、
誰のためのどこの層の実態経済を指しているのかしらん? と正直思います。
実態は、もはや一つじゃなくなっている……

なーんて、経済素人の感想を長々と述べて失礼しました。
きっといろいろ語りたくなるドラマだと思います。

ドラマのラストで、
「一人のエヴァ・スミスは、この世を去りました。しかし、何千万、何百万という無数のエヴァ
のような男女が、わたしたちのもとに残されています。‥わたしたちは、お互いに対して責任
があるのです」とグール警部が述べる言葉がとても重いです。

ブラボー!!

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