GW後半その3、六甲をぶらりの続き雲間に射す陽を求めて

2012年05月13日

すーぱーショートストーリー3

はい、おはようございます。          雪華ホーム

12-5-9母の日カーネーション縮小版


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2011年の秋からですが、NHKカルチャーセンター(梅田校)の『4枚小説を書こう』に挑戦中なんです。
講師は岡部義孝先生で、エッセイの講座もお持ちです。
半年の第1期が終わり記念文集も作ってもらい、↑写真の金平糖のご褒美(?)も頂き、来期もますますやる気満々の今日この頃でございます(まあ精神と、執筆力は別物ですがね)。

1600字という枠はたいへん短くて、とっつき易いかと思いきやとても難しいです。俳句や川柳などはその極致ですものね。通常のショートショートよりもさらに短くて、「すーぱーショートストーリー(通称SSS)」と岡部先生が名づけられました。教室では面白い作品がたくさんあるんですが、勝手に載せるわけにはいきませんので、ひ・み・つ。私の作品でお茶を濁して頂きたいと思っています
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      『樹木をめぐる物語』         牧山雪華
       2.欅(ケヤキ)の精
 
「今年の花火大会は、あの花火橋には行っちゃ、ダメ。絶対に行かないで」
亮は、綾香から血相を変えて言われた。ゴールデンウィーク明けの蒸し暑い日だった。
 学校は小高い山の頂上にあり、その手前に幅十メートルほどの小さいが、流れが速く深い川がある。その岸に樹齢千年と推定される欅の巨木があった。川に架かる山田橋(花火の絶景ポイントなので、通称「花火橋」)に沿うように太い根が張り出し、もう一方の岸にまで伸びて再び土に潜っている。その様が珍しく県指定の文化財になっており「木の根橋」という。二人のいつものデート場所だった。友人からは、入学当時の綾香の暗さとは全く別人のようになった、欅パワーかも、とその頃しきりに噂された。
「今度は、いったいどうしたって言うのかい? ほんとに綾香には驚かされる。試験の問題やらいろいろ当てるだろ。君って預言者?」
 亮は、この花火の件は、たわいのない話とその後すっかり忘れてしまっていた。

 7月の初め、父親の転勤により亮の家族は引っ越すことになった。クラス委員長が亮に尋ねた。
「亮の送別会として、みんなで花火大会に行こうっていうことになったけど、都合つく?」
「ああ。綾香は来ないのだろうなあ」と、亮は沈んだ声を出した。綾香は、うつ病の悪化とのことで、学校を一ヶ月近く休んでいた。
「花火には反対だって変なことを口走っているんだ。綾香にとって外出はいい機会だろう? 最後には僕らの説得で根負けしたみたい。来ることにしぶしぶ承知したんだ」
 亮はうれしい反面、責任を感じた。

 花火は下流の川で打ち上げられる。古い橋だが普段は車も往来する花火橋がクラスの待ち合わせ場所だ。年々、花火は質量共に向上し来場者数を増した。

 花火の日になり亮はあのときの綾香の言葉が胸中をよぎり、次第に不安になってきた。
 綾香はこの時、欅の木肌に「亮」の文字を刻んでいた。どこに引っ越しても活躍をして人気者になれますようにと念じた。そして決意を秘めた眼差しで街の景色を見下ろした。
 亮は急遽、待ち合わせ場所の前に綾香の自宅を訪ねたが、既に出かけたと綾香の母親に言われ会えなかった。一時間も早く花火橋に到着すると、橋の上は既に人々で寿司詰め状態だった。大勢のクラス仲間に混じって遠くから綾香は亮に手を振った。少し淋しげな綾香の笑顔は、「こんにちは」の挨拶よりも「さようなら」と手を振ったように見えた。やがて闇夜を色とりどりの花々が競演を始めた。
 人ごみで、亮は綾香のそばにいくことができない。
クライマックスの大仕掛けの花火が打ち上げられた時、橋が悲鳴をあげた。花火橋は人の重みに耐え切れずに崩れ落ちたのだ。天を仰ぐ歓声から阿鼻叫喚になった。
 亮も「わあ」と叫んで橋の割れ目から川に吸い込まれた。泳げない亮が、手足をばたばたさせながらもがいていると、綾香の声が確かに聞こえた。「こっちよ」と。その声がする方向に手を必死で伸ばすと不思議なことが起こった。木の根橋の長い根がするすると動いてまず、亮の手に巻きついた。それから、亮の体を引き寄せてそのまま岸辺に引き上げたのだった。亮は、少し飲んだ川水を吐き出しながら、無我夢中で、叫び続けた。
「綾香! どこにいるんだ? 綾香!」
 彼女の声は二度と聞こえなかった。

 翌日の新聞は綾香の水死を報じた。亮は綾香が自分の身代わりになったと思った。


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