春の高校野球たけなわ春爛漫、来たかな

2012年04月02日

すーぱーショートストーリー2

はい、おはようございます。          雪華ホーム

ザルジアンスキア


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2011年の秋からですが、NHKカルチャーセンター(梅田校)の『4枚小説を書こう』に挑戦中なんです。
講師は岡部義孝先生で、エッセイの講座もお持ちです。
半年の第1期が終わり記念文集も作ってもらい、↑写真の金平糖のご褒美(?)も頂き、来期もますますやる気満々の今日この頃でございます(まあ精神と、執筆力は別物ですがね)。

1600字という枠はたいへん短くて、とっつき易いかと思いきやとても難しいです。俳句や川柳などはその極致ですものね。通常のショートショートよりもさらに短くて、「すーぱーショートストーリー(通称SSS)」と岡部先生が名づけられました。教室では面白い作品がたくさんあるんですが、勝手に載せるわけにはいきませんので、ひ・み・つ。私の作品でお茶を濁して頂きたいと思っています
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      『はい、こちら探偵事務所』      牧山雪華
1.迷路    

「助けてください。早く坊やを探して!」
 白のコート姿の女性が必死に訴えた。冷たい雨の降る午後である。加藤仁は三十代後半にして、念願の探偵事務所を繁華なビジネス街に立ち上げることができた。その最初の依頼人が、渡瀬美香という三十五歳の女性で、行方不明の息子を捜索してほしいとのことだった。
「坊やは、庭で紙飛行機を飛ばすのに夢中でした。玄関の門を超えてふわりと飛んだ飛行機を追いかけて道路に出たのでしょう。私は花に水をやっていてちょっと目を離したのがいけなかった。私の責任です。あわてて私も後を追いかけましたが、間が悪いことに猛スピードで車が走ってきたのです。『ああ、はねられた!』と思った瞬間私はすぐに気を失ってしまって……目が覚めたときには坊やも車も消えていましたの。息子がいないのです」
「事故の形跡は残っていなかったのですね」
 当初は誘拐事件として捜査された。でも何の身代金目当ての連絡もないまま時がたち、警察も積極的に動きようのない手詰まり状態になってしまい、個人的にも捜索したいというのが美香の言い分だった。
「主人は事件の一年ほど前に亡くしています。幸いなことに資産家でしたからお金の心配は無いのです。依頼料は、世間の相場の三倍、いえ十倍お支払いいたします。私には坊やしか、たった一人の息子しかいないのです。四歳では、遠くに連れて行かれれば帰って来られませんでしょう? 今も道に迷って泣いているのが聞こえます」
 美香は華奢な体を震わせて、ひとしきり泣いた。顔を覆った白くて細い指には大粒のダイヤの指輪が光っていた。そして彼女は手付けとして現金の束を置いて帰った。

仁は待望の収入を金庫にしまい、さっそくはりきって調査を始めた。事務所にアルバイトとして、姪の葵を雇っている。翌日も美香は現れたが、葵が食事に出て留守のときであった。「美人でお金持ちの未亡人の夢でもおじさんは見ているんじゃないのー」と葵は冷ややかな目で仁をちらりと見て言った。仁は「事務所では、頼むから所長と呼んでくれ」と話をはぐらかした。

依頼から三日がたった。調査の結果は仁にはどれもこれも信じられないことばかりだった。まず、美香の息子はあっけないほど簡単に見つかった。困ったのは依頼人である母親と連絡が取れなかったことだ。数日後、訪ねてきた美香を仁は或る場所へ誘った。

 この年の成人式も小雨まじりの寒い日となった。地元の小学校では華やかな式典の最中だ。成人の代表として体育館でスピーチをする若者がいた。渡瀬健一と紹介された。
「僕は、四歳のときに車にはねられそうになりました。母は自分の命を投げ出して僕を助けてくれました。僕さえ気をつけていたなら母は死なずにすんだものと、どれだけ自分を責めた歳月だったでしょう。それでも、がむしゃらに勉強にスポーツに励み今日に至りました。二十歳を迎えさせてくれた母の真心に感謝を捧げたいと思います……」
 泣き崩れている美香に仁は優しく語った。
「あなたは、十六年前に亡くなっています。あなたの居場所はここではありません。彼は何度もつらい思いをしてきましたよ。でも息子さんは立派になられましたね。今度はあなたが道に迷ってさまよわずに、息子さんとお別れする番です。もう彼は一人で大丈夫」
 仁の言葉に唯はうなずいて、かき消えた。

 金庫を恐る恐る開けてみると、仁の予想通りに現金は消えていた。が、ダイヤの指輪があった。


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