春は何色?宝塚歌劇『天使のはしご(「高慢と偏見」より)』観てきたよ

2012年03月29日

すーぱーショートストーリー1

はい、こんにちは。          雪華ホーム

春色金平糖


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2011年の秋からですが、NHKカルチャーセンター(梅田校)の『4枚小説を書こう』に挑戦中なんです。
講師は岡部義孝先生で、エッセイの講座もお持ちです。
半年の第1期が終わり記念文集も作ってもらい、↑写真の金平糖のご褒美(?)も頂き、来期もますますやる気満々の今日この頃でございます(まあ精神と、執筆力は別物ですがね)。

1600字という枠はたいへん短くて、とっつき易いかと思いきやとても難しいです。俳句や川柳などはその極致ですものね。通常のショートショートよりもさらに短くて、「すーぱーショートストーリー(通称SSS)」と岡部先生が名づけられました。教室では面白い作品がたくさんあるんですが、勝手に載せるわけにはいきませんので、ひ・み・つ。私の作品でお茶を濁して頂きたいと思っています
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      『樹木をめぐる物語』         牧山雪華
       1.楠(クスノキ)の香り
 
 京の六角堂界隈は賑やかに立ち並ぶ灯りのついた屋台をひやかす人々でごった返していた。
時は文政年間、盆祭りの夕べである。
 静は雑踏の中、お金の工面がつかずにさまよっていた。
中には身売りをほのめかす者さえあった。
そこに、身なりのいい商人風の若い男が懐から財布を落とすのを見た。
「あっ」と声をかけたが、人ごみに消えてしまった。
その財布を拾い、ズシリとした重みに静の気が一変した。
懐に財布をしまい大急ぎで駆けるだけ駆けた。
自分は鬼に成り下がった。
異国船のように打ち払われても悔いはないが、弟の病とその将来だけはなんとかしたい、
という思いに静はとらわれていた。
 両親を亡くし故郷の丹波を後にして一年になる。
茶店で働き生活が苦しいのは覚悟の上だったが、弟が病に倒れ、一層貧窮した。
山郷には親身になってくれる和尚さんがいた。
弟は頭が良く何より心根の優しさを見込まれ末はお医者様にと勧めて資金も出してくれるとまで言った。
裏山には楠がたくさん生い茂っている。
寺には特に大きな樹齢何百年となる楠の巨木があった。
その木に登り夕暮れの中、母の呼び声を聞いた。
夜分に父に叱られて家を飛び出し、背を木にもたれ星空を眺めたりもした。
楠の香りに抱かれた日々だった。

 静は粗末な長家に戻りあわてて財布を開いた。
臥せっていた弟の仙次が何事かと起き上がった。
財布には小判二枚といくつかの小銭、紙に包まれた香しい白い粉末、
財布の持ち主の店ではないかと思われる所書きや名前が記された紙が入っていた。
「小判なんだ! 南蛮渡来の心の臓に効く薬が買える、治るのだよ」
 と静は目を輝かせて財布を拾ってきたことを仙次にまくし立てた。
「姉さん、落ち着いて。ひどいことをお言いじゃないよ。使い込んだら盗人じゃないか」
 仙次の生真面目すぎる答えに静はがっくりとうなだれた。
身売りの三文字が静の脳裏を再びよぎった。
数えで十の仙次には話せない。
「姉さんが人様のものを盗んで平気でいられる人じゃないことを私もよく知っているよ。
 私が病気なんかになったばっかりに、迷惑をかけてごめんよ、ごめんよ」と仙次が泣いた。
 静の目からも大粒の涙が次々と流れて落ちた。
嗚咽は悲鳴になった。
両親を相次いで亡くしたときも気丈に涙を見せなかった静だ。
「悪いことだとはわかっている、だけどこの小判が要るの! 要るのよ!」
 と静は落とし主とも弟とも神とも知れぬ誰かに祈るように床に額を押し付けて泣き叫んだ。
三日三晩、姉弟は共に涙にくれ、終に静は返す決心をした。
たとえ返しに行っても番所に突き出されるのではないかという新たな恐れも感じた。

「この粉末は楠から作る樟脳だよ。着物の防虫剤や薬としても使われる、うちの家業でね」
 落し主は忠敬という名で、さる大店の5人目にやっと生まれた男子だという。
静は落ちたものを盗んだと正直に話してひたすら謝った。
忠敬はひとしきり静の身の上話を聞いたあと、おもむろに口を開いた。
「和尚さんの所に帰るのがいいかもしれない。
 だけど一つ、いいことを思いついたのだ。
 薩摩の国から樟脳のルートは出来上がっているけれども、近場で調達できれば尚いいだろう。
 楠がそんなにたくさんあるのなら、商いのことを考えてもらえないだろうか。
 樟脳はある種の心の臓の病にも効くのだよ」
 忠敬の言葉を静はじっと聞き入った。
「これは、お礼と丹波までの旅費にとっといておくれ。仕事を依頼するのだから」
 忠敬は財布から小判一枚を取り静に手渡した。
「でも財布を落としたことは内密に頼むよ。
 私はうっかりものだから気をつけるように親父から毎日小言を言われているのでね」
 静は濡れる頬をぬぐいながら、嬉しくても涙が流れることをこの時初めて知った。


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