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2011年02月10日

しんまい華道教授・雪華ちゃんの事件簿 その23

はい、こんにちは。     雪華ホーム



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いけばな教室を巡る、悲喜こもごもを会話形式のお話にして綴っていこうというカテゴリをつくりました。どれだけ続けられるかわかりませんが。

これは、フィクションであり、登場人物や環境も全て架空のものです。が、当たらずといえでも、遠からじの逸話もありますので、ご自由に想像してくださいませ。

いけばなをとりまく環境はずいぶん時代とともに変わっています。私は今二つのパターンで、誤解や間違ったイメージにとらわれているんではないかと感じています。私たち世代は、お嫁入り前にお茶やお花を習っているのが当たり前な時代のたぶん、最後の世代だと思います。それ以降生まれの方たちにとっては、まったく未知の世界であるという方がけっこう多いですね。いけばなに対する反応を耳にして、こちらも驚くことが多いですし、いけばなをやっていない方たちとの間のギャップをものすごく感じます。周知のものと勝手に解釈していて、説明することを怠っていたりすることもひとつの要因かと思います。それを少しでも身近なものにできたらいいなあと試みました。そしてもうひとつのパターンです。それは、結婚する前にちょっと嗜んでいたわ、という方々にとってです。いけばなの表現方法は、古典芸能の側面もありますので、こちらの基本的な概念は、そうは変わりません。が、自由な発想を元とする芸術的な面は、相当変化しているはずです。不易と流行はともに必要なことですから、時代とともに進化していくいけばなもまたすばらしいものです。ここを、かつてのものと、リセットしていただく必要があるように感じています。

それらの思いをこめて、楽しいお話にできればいいのですが、・・・小説家でもなんでもありませんから、拙いものになりますが、ぜひ読んでみてください。
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<イベント>のつづき

 雪華ちゃんは、親先生宅をいつになく、早めに切り上げて高級なマンションを後にした。お寿司をご主人に買ってきてもらうから、もうちょっといなさい、という先生の有難い申し出に気がひけた。実はこれこれ、探偵の真似事をしにこれから出かけないといけないもので、とは言えない。定年退職された先生のご主人は寡黙な方で、お愛想はけっして言わない人のようだが、車でうちまで送っていこうかとも誘ってくれた。ほんとに我儘し放題の弟子をお許しくださいとの気持ちで深々と頭を下げた。

「お母様に、よろしく伝えてね。親孝行しなきゃだめよ」
と、先生は毎度しつこいぐらいに言う。

「はいはい」

「はいは、一回」
と二人して笑う。

「うちの母も、いつもいつも、先生によろしくって言ってます。両方で同じこと言ってますから。ありがとうございます。また、近いうちに来ますから」

先生はいつもと変わらない明るさと手際の良さで、年齢を少しも感じさせない。雪華ちゃんは、その幸福を当たり前のように享受して、永遠に変わらないものと思っていた。

 最寄の地下鉄の駅まで、10分弱ほどだ。ここにはもう10年ほど通っている。お稽古に通い始めた頃は先生のお宅は行徳駅近くのマンションだったので、自宅から歩いて5,6分だった。雨の日も風の日も、当時の彼氏にふられた日も道々、泣きながら通った日もあったっけ。あそこにも10年ぐらい通った。帰り道には不思議とケロリとしているのが常だった。

 旧道がこれでもかというほど蛇行して、遠回りに感じる。前には無かった流行の薬屋さんができている。駅前はあまり開発されないまま、大きなパチンコ屋さんがポツンと立っている。地主さんたちがもっと地下が上がるのを、畑のふりをして待っているのだそうだ。改札のまん前にあった、小さな書店は無くなっていた。時間調整に随分重宝していたのだが。

 途中、浦安駅を通過する。JR舞浜線ができる前はファンタジーランド行きの観光客でごったがえしていて、賑やかであった。それが今ではだいぶさびれた。 ただ、東京への通勤圏内としてラッシュ時の人の混雑は相当なものだ。立ち居地を誤ると、骨折するんではないかと思うほどの重圧になることもある。先日の新聞でランド入場料がこのデフレの時期に値上げを決定した記事があった。広報課は、それだけの価値があるとの強気のコメントをしていて、さすがだねと雪華ちゃんは妙に納得したものだ。

 景子さんから聞いた、伊藤さんの奥さんが勤めているという美容院へこれから行くつもりだ。目的の葛西駅はいつも東京の勤務地や繁華街へ向かうための通過する駅であって、降りたことはない。花展の前だから、きれいにしてもらうのにちょうど良い。でも、わざわざなんでこの美容室に来たのか怪しまれるんではないかと、口実をあれこれと巡らせている。

 川の上の鉄橋を地下鉄が通ると強風で爆音をたてる。地下鉄といっても、西船橋のターミナル駅からこの少し先までは、高架を電車が走っている。その昔、強風のために橋の上でひっくり返ったのだという伝説がある。そんな大惨事が本当にあったのだろうか、調べてみたこともない。停車したぐらいのことだったのではないかと大方たかをくくっているが、ちょっとした恐怖がもしかしてと真実味を帯びる。

 改札口を抜けると、方向音痴である雪華ちゃんは、あたりをぐるっと見回す。少し先に見える大手スーパーマーケットが目印だ。夕げの準備に人が集まっている。そこをやりすごして、2,3分で美容室を見つけた。

 (ラビッツ)という名前だった。今年の干支であるから、縁起がいいぞ、と意を決して、ドアを押した。カランカランと高らかな音が鳴ったので、ぎょっとしてしまった。

 ふくよかな、40代後半ぐらいだろうか、女性がにっこりと迎えてくれた。

 肩より少し長いくらいの髪を、もう少し伸ばしたいと思っていたので、そろえる程度のカットを依頼した。痛んでピンピンはねてる部分をそいでほしかったのだ。一通り説明してから、シャンプーをしてもらってさっぱりした。人に洗ってもらうとなんでこんなに気持ちがいいのだろう。それから、最初に座ったイスにもどりカットが始まった。

 傍らにある女性誌の表紙をちらりと見て
「嵐とかお好きですか?」

「人気なんですよね。いえいえ、私はさっぱりわからないんです。ほとんどテレビも見なくって。スマップが何人いるのかだって定かじゃないし。V6って、てっきり野菜ジュースでしょうって思ってたぐらい」

「野菜ジュースって?8種類入ってるとかいう?あれ?それって、ネタでしょ?」
ここで、美容師さんはハサミを鏡の前の奥行きの短いテーブルにおいて体を二つに折らんばかりの勢いで噴出した。本気で大笑いしているようだった。

「ネタでしょう!」
ってまだ信じられない様子である。

 雪華ちゃんの場合、笑わせようとすることより、そのまんまの方がよく笑われる。意図はどうあれ、笑いは人と人の距離をぐっと近づけてくれる最良のコミュニケーションだ。

「ラビッツって、複数なんですね」
と、雪華ちゃんは看板を見て疑問に思ったことを尋ねた。

「そうなんですよ、かわいい後輩とこの店を始めたもので。どちらもウサギ年生まれだったものですから」
美容師さんのハサミさばきはお見事で、しゃべっていても手は休まない。

「へー、その方は?」

「それが、事情があってこの8月で辞めたんです。私の名義の店ですけど、同志だったので、ショックなんですけどね。仕方がない。彼女のためにも独立した方がいいですし」

「じゃあ、ラビッツさん返上?」
彼女が辞めた?いない?、この徒労をどうしてくれようと、気が動転してくる。

「いえいえ、それがですね。世の中不思議な縁で。うちの娘がこれまたウサギ年生まれで、これまた美容師の卵ときてるんです。専門学校に在籍中ですけど、手伝ってくれることになっていて」

「それは、良かった。お母さんの後姿を見て育ってらっしゃるのね」
と、お世辞を言いつつも、雪華ちゃんは、その若い方の美容師さんの話にどうやってもっていこうかと苦心している。

「美容師さんって、相性があるからお得意さんをもっていかれたりすることってないですか?」
と水を向けてみる。

「それは、大丈夫なの。仙台だから。実家が仙台でね、帰ることにしたんですよ。まあ、彼女のためならお得意さんをあげてもいいと思ってるんですけど」
と、太っ腹なところを見せた。

「せ、仙台!」
思わぬ展開にドキドキしてくる雪華ちゃんだ。
「東京はいやになっちゃったの?、いえね、私が今実は仙台に住んでるものだから親近感をおぼえてしまって。ごめんなさいね、根掘り葉掘り」

「数年前にご主人が亡くなったんだけど、一人娘もおじいちゃん、おばあちゃんになついているから籍もぬかないで同居していたんだけど、やっぱりいろいろあったらしいの」

 死んだ?誰が?と思わず叫びそうになるのを、必死でこらえた。髪はおおよそできあがったようで、美容師さんは後ろのテーブルにある鏡を持って雪華ちゃんの後頭部にあてた。どうですか?と聞かれたが、目は鏡の中を見ていなかった。

 ちなみに、その美容師さんはバツ一なのだそうだ。夫婦は他人であって、同床異夢の毎日に決着をつけたらしい。カラカラとした物言いの奥にドロドロ模様が出てきそうになったので、話を変えた。

 そそくさと帰り支度をしながら、雪華ちゃんはバックの中から青年部花展の案内ハガキを5枚ほど出して無料ですのでね、もしももしもですよ、お暇ができましたら見に来てくださいませんか?と美容師さんになかば無理やり手渡した。

 頭が混乱している。駅までどうやってもどったのか定かではなかった。それから、土日の展覧なのであの美容師さんには不必要だったなと後悔した。そろそろ、8時近くになっていたのを腕時計で確認すると急にお腹がすくのを感じた。うちに帰ってご飯を食べてから考えることにしようと、帰りの通勤客で込み合った地下鉄に再び乗った。

 車内のたくさんの群集はそれぞれの孤独の中にいる。ケータイを手に、漫画を手に、ゲーム機を手に。けれど、絆やつながりを求めていないわけではないのだ。新たな流行やツールがそれを示している。
 

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