ホワイトクリスマスを夢見てオペラ座の怪人(映画と劇団四季の融合)初の試み!最高!

2010年12月16日

しんまい華道教授・雪華ちゃんの事件簿 その21

はい、こんにちは。     雪華ホーム



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いけばな教室を巡る、悲喜こもごもを会話形式のお話にして綴っていこうというカテゴリをつくりました。どれだけ続けられるかわかりませんが。

これは、フィクションであり、登場人物や環境も全て架空のものです。が、当たらずといえでも、遠からじの逸話もありますので、ご自由に想像してくださいませ。

いけばなをとりまく環境はずいぶん時代とともに変わっています。私は今二つのパターンで、誤解や間違ったイメージにとらわれているんではないかと感じています。私たち世代は、お嫁入り前にお茶やお花を習っているのが当たり前な時代のたぶん、最後の世代だと思います。それ以降生まれの方たちにとっては、まったく未知の世界であるという方がけっこう多いですね。いけばなに対する反応を耳にして、こちらも驚くことが多いですし、いけばなをやっていない方たちとの間のギャップをものすごく感じます。周知のものと勝手に解釈していて、説明することを怠っていたりすることもひとつの要因かと思います。それを少しでも身近なものにできたらいいなあと試みました。そしてもうひとつのパターンです。それは、結婚する前にちょっと嗜んでいたわ、という方々にとってです。いけばなの表現方法は、古典芸能の側面もありますので、こちらの基本的な概念は、そうは変わりません。が、自由な発想を元とする芸術的な面は、相当変化しているはずです。不易と流行はともに必要なことですから、時代とともに進化していくいけばなもまたすばらしいものです。ここを、かつてのものと、リセットしていただく必要があるように感じています。

それらの思いをこめて、楽しいお話にできればいいのですが、・・・小説家でもなんでもありませんから、拙いものになりますが、ぜひ読んでみてください。
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<イベント>

 定禅寺通りジャズ祭というものがあることを、丸山さんから聞いて雪華ちゃんは知った。なんでも、サミール君が生ピアノを演奏することに急遽決まったらしくて、日夜猛特訓だったのだそうだ。

「それがね、景子さんはチェロの名手らしくてドイツ時代のお友達と二人で二重奏をやる予定だったの。日本に遊びに帰ってらしてね。ご主人は、ドイツの方よ。彼のお母さんが具合が悪くて入院したそうなの。それで彼女もドイツに帰ってしまったって。仕方が無いわね」
と、電話口で丸山さんが早口で説明してくれる。

「まあ、景子さんの交際範囲の広いこと!、才能豊富なこと!ひょっとして、プロ?景子さんっていったい何者なんだろ?」
サインをもらっといた方がいいのではないかと、そしてそれは高く売れるのではないかと、欲ぼけなことを考えている。

「事件のその後も興味があるけれでも、景子さんそのものがミステリーだわ」

「私に、根掘り葉掘り聞けって言ってもダメですからね。向こうが話してくれれば喜んで聞きますけれども、私からは聞けないでしょう?」

「やっぱりね。そう言うと思った」
あっさりと引き下がった丸山さんだが、それだけで納まるわけがない。
「世が世なら、とかっていうおひーさまなんじゃないの?サミエル君と同じ超高級タワーの最上階に住んでるって」

「情報がなんて早い……入門のときに住所を書いてもらうから、一応知ってたのよ」
雪華ちゃんは、明菜ちゃんが入院したときにサミエル君と景子さんの帰りが同じ所で都合がいいなと思ったものだから。

「サミエル君だって、どうやら。景子さんとの初対面のときの話から察するに航空会社の御曹司さま?」

「そうよ。なんでこんなところにいるのかしら」

「笑える、それ」

「あの大学は立派な留学先ではあるけれども。旅行会社をやりたいって言ってたなあ。日本やアジアをターゲットに」

「マハラジャたちは、どんなくらしぶり?『家族の四季』を観たでしょう?空港から自家用ヘリコプターにお乗換えよ。着いた家がお城だし。シャールクかっこよすぎ」

「あれは面白かった。でも私はインド映画は三つしか入り込めない。だって日本語字幕のあるのが少なすぎよ。韓国ドラマも好きだけど、インド映画も吹き替えをしてほしいわ」

「英語の字幕をほとんど読めなくても十分楽しいよ。そりゃあ、わかったらもっと楽しいでしょうけど」
今や英語字幕でボリウッドを観始めた雪華ちゃんである。ときどきポーズボタンを押しては辞書を引く。普通三時間はあるインド映画の長さに加えて、止まってる時間も入れると相当のものになる。

「それより、すっごい楽しみ。二人のコンサート、観に行こうね。聴きに行こうね」
と決めてかかっている丸山さん。

「ジャズフェスなのに二人がやるのはジャズじゃないやん、クラシックなんかさっぱりわからんです。モーツアルトのCDボックス、丸山さんにお借りしたのをね、聞いてますよ。ピアノ協奏曲の5番から19番まで皆、同じに聴こえます。ほんとにね20番になってやっと、これだこれだっていう感じでして。まあ、いいわ、ジャズだってどうせわからないんだしね。とりあえずお祭りっていうのが好きかな」
と、すぐに気持ちは傾き始めた。

「特別な人以外は、みんなそうよ。何度も聞いてるうちに違いも良さもわかってくるんだから。繰り返し聞いてみて。いけばなだってそうなんでしょう?」

「はいはい、確かに。よくわからないけど、明るくて気持ちが高揚する感じが、私好みかも。もう少しよく聴いてみる。サミエル君から借りたボリウッド映画が、衝撃的だったしね。生徒さんたちにいけばなの良さを本当に伝えられるのか自信ははなはだ乏しいけど、逆に私がみんなから影響を受けることの大きいことにびっくりしている。いけばな以外のことはね、予想してなかったから余計に」

「私の選曲は当たりだったようね。雪華ちゃんらしいと思ったから薦めたの」

「私って、天才ってことだわね」

「よく言えるもんだ。それは私は知りません。でもね、モーツァルトはいつも能天気な子供じみた天才で、何もバラ色生活だったわけではないのよ。苦しい時代でさえも、あの明るい楽曲を生み出してる。彼の創作は自身の不幸を微塵も感じさせない。ショパンは雨降りのときに雨の曲を作ったりするでしょう?ひととなりやその人の人生が芸術作品に表れることが多いでしょう?でもそうじゃないところがモーツァルトのスゴイところだと思うの。雪華センセもそういう明るさを持ってるんじゃないかって感じることがあるから。これからも失ってほしくないなあって」

「つまり、私は天才ではないけれども。いっつも、能天気で子供じみてるっていうことね。まあ、せいぜいがんばりますよ、あーあ」
とため息をつきつつ、目は電話の向こう側の丸山さんをにらんでいる。

「ふふ。このジャズフェスはねジャズに限らず、ロックの曲などでもいいのよ。生ピアノの貸し出しだけは数に限りがあるらしいから早くに予約してたんですって。というか、景子さんの市民オケの先輩が申し込みをしていたらしいんだけどね」

 丸山さんは5年ほど前からバイオリンを習い始めて、夢中になっているのだ。この前、何人かで行ったカラオケの部屋で披露してくれたことがある。防音装置があるので、音楽専門スタジオを借りるより、安いわとカラオケ店の別の使い道を発見したようだった。習い始めた頃は飼っている猫が、ひきつけを起こして、練習している部屋からギャーっと飛び出して行くのだそうだ。容易に想像ができて、しばらく笑いを止めることができなかった。カラオケ店の利用を早くに気付いていれば、猫の迷惑も少なくなったことだろう。楽器も通販で買ったものを音楽スクールに持ち込んだという。いくら入門者でも、そんなおもちゃではいけないと先生に諭されてから、大金を投じて買った。確かにそうだ。弘法は筆を選ばないでいいんだけれども、凡人は選んだ方がいいことがよくある。音を出すだけでそんなに苦労するのだ、根気強くないとやっていられない。元々クラシック音楽好きで、コンサートにもしょっちゅう行っていたから、楽器に対する憧れも人一倍大きかったのだろう。けっこうクラシック好きですよっていう人でも、その実よくは知らない人が多いのよって、憤慨していたことがあった。人目をひくフレーズのある一部分だけを抜粋したようなものでは、本物は絶対伝わらないし、音楽に無駄は何ひとつないのだと一家言もっている。また、それで満足しているような聴衆は決して、全曲通して聞いてみようと深く追求することは決してないだろうとも言っていた。そんな人でも、いざ自分が実際に演奏するとなるとわからないことが多くて、笑い話には事欠かない。

 その日は晴天でひとまずみんなを安堵させた。

 定禅寺通りは、勾当台公園から仙台市民会館の区間にケヤキの街路樹がある。道の両脇の歩道にそれぞれ1列ずつ、中央分離帯に2列の計4列にケヤキが並んでいて普段から市民に愛されている通りだ。枝葉が通りの上部を覆っていて、緑のトンネルさながらの光景である。冬季のSENDAI光のページェントの際には「光のトンネル」に変身する。その景観の美しさから、日本の道100選に選ばれているのもうなづける。通りの遠くから既にいろんな音が交じり合って聞こえてくる。近づくと大勢の人盛りができていて、演奏者と聴衆の熱気で盛り上がっている、車はもちろん通行止めだ。これは、聞いていたよりもはるかに盛況のようである。アマチュアがほとんどで、それぞれの得意な楽器を持ち寄って、誇らしげに演奏する良い機会なのだそうだ。まだ、音楽に触れていない人にとっても、いい刺激になりこれを機に始める人も出てくるだろう。屋台もたくさん出ていて、雪華ちゃんの視線はもっぱらそちらの方に釘付けである。

「間に合った、ここみたい」
と丸山さんは、雪華ちゃんを誘導した。前へ前へとかなり強引に。

 景子さんがこれから演奏する曲目、ベートーベンのチェロソナタ第3番の説明を少ししてから、景子さんの手が優しく、サミエル君の肩を撫でた。

「こちらのサミエル君のピアノはほんとに久しぶりだったので練習を重ねました。突然の代役を引き受けてくれて感謝しています。間違ってもご愛嬌ということで、許してくださいね。楽しくやりたいと思います、でも一所懸命にやります。みなさんもどうぞお楽しみください」
しめくくって、もう一度サミエル君をちらっと見た。彼は、ピアノに向かってふーっと大きく息を吐いて、景子さんに少し笑ってみせた。

 演奏が始まった。野外なので、気楽な演奏会なのだが、景子さんの雰囲気はいつもと全然違って見えた。珍しく、アップスタイルの髪に黒のシンプルなワンピースが彼女の白い襟足をより綺麗に見せていたし、自信に満ち溢れた微笑と均整のとれた体型で、チェロに向かう様子は神々しい姿にさえ見えた。並んで、サミエルくんもスーツ姿でりりしいが、ピアノの前で相当の緊張ぶりだ。雪華ちゃんは、音の素晴らしさよりも二人の美しさにうっとりしていた。

「ピアノとチェロが会話をしているような楽曲なのよ」
とささやくように丸山さんが説明してくれる。

「なるほど、なるほど」
とささやき返しつつも、二人は本当にお似合いのカップルだなと最初は惚れ惚れと眺めてるだけだった。

 次第にチェロ独特の朗々と歌うような旋律と華やかな技巧による魂の音が聴衆の胸に響いていく。チェロの音をこんなに間近で聞いたのは生まれて初めてだなあと雪華ちゃんは思っている。まわりを見渡すと、皆満足げな表情をしている。音が人の心を開放する不思議さを感じもする。実際にこの楽器はこんな響き方をするのだなと音に集中した。

 チェロの、のびのびとした大らかな響きが繊細なピアノの音を導いている。

 雪華ちゃんは昔旅行したライン川沿いの鉄道から見た景色をなぜか突然思い出していた。眠っていた記憶を呼び覚ますスイッチが音楽にはある。音とともに浮遊していく自由な心をもう一人の自分が遠くから見ているような錯覚を味わう。その錯覚は実に心地よいものだと知る。

 演奏が終わると、夢中で拍手をしていた。

「サミエル君が心配だったんだけど、すごいわあ。彼もやるわね」
丸山さんも、満足げだった。ブラボーと声をかけていた。二人はスターのように聴衆から喝采をあびている。私達の知り合いなのよ、って雪華ちゃんは誇らしげな気持ちだった。

 三々五々、群集が散らばり、景子さんは楽器をしまい始めた。一人の青年がかかえきれないほどのバラの花束を手に、彼女に歩み寄った。

「まあ、強くん。驚いたわ。ありがとう、来てくれたんだ」
という景子さんのはずんだ声が雪華ちゃんにも聞こえてきた。

「これは、面白くなりそう……三角関係か?」
丸山さんが独り言のようにつぶやいた。



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